​【1000年前の縦読みから始まった】「ド」の音って誰が決めたの?標準音(A=440Hz)を巡る世界規格の科学と歴史

専業主婦のエッセイ

​ピアノの鍵盤の前に座ったとき、あるいは学校の音楽室で発声練習をするとき。

当たり前に口にする「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」。

​あまりにも自然に私たちの日常に溶け込んでいるため、「ドレミ」という音階も、「この高さが『ラ』の音」という基準も、まるで宇宙の物理法則として地球ができた時から存在していたように思えませんか?​

しかし、衝撃的な事実があります。

私たちが信じている「ドレミ」も、基準となる音の高さも、すべて人類が歴史の中で知恵を絞り、議論し、会議で決定した「人為的な世界規格」だったのです。

​今回は、音楽の「当たり前」を揺さぶる、音の科学と歴史の物語へご案内します!

「ドレミ」の正体は、1000年前の聖歌の『縦読み』だった!?

​「ドレミファソラシ」という言葉。

実はこれ、とあるラテン語の聖歌歌詞から抜き出した、当て字から生まれました。

​時計の針を1000年前、中世ヨーロッパの暗黒時代(11世紀頃)へ戻してみましょう。

当時、カトリックの修道士グイド・ダレッツォという人物が頭を抱えていました。

ダレッツォの僧ギドー

と習った!

​「聖歌隊の弟子たちが、新しい歌の音程を覚えるのに時間がかかりすぎる……なんとか簡単に音階を覚えられる良い方法はないか?

​そこで彼が思いついたのが、洗礼者ヨハネを称える聖歌『聖ヨハネ讃歌(Ut queant laxis)』を使った画期的な記憶術でした。

​この聖歌の歌詞(ラテン語)を見てみてください。

​□Ut queant laxis(伸びやかな声で)​

Resonare fibris(響かせることができるように)

​□Mira gestorum(あなたの奇跡の偉業を)

​□Famuli tuorum(あなたのしもべである私たちが)

​□Solve polluti(私たちの汚れた唇から)​

Labii reatum(罪を赦してください……)

​この聖歌、上で示した□をワンフレーズとして、曲のフレーズが進むごとに、メロディがキレイに「1音ずつ」上がっていくように作曲されていたのです!

そして、それぞれの句の頭文字をつなげると……

Ut(ウト) – Re – Mi – Fa – Sol – La

​そう、修道士グイドは「聖歌の歌詞の縦読み」を語呂合わせにして、弟子たちに音の跳躍を覚えさせたのです。

これが、音高そのものに名前をつける「ドレミ唱法」の始まりでした。

​後に、子音で終わる「Ut(ウト)」は歌いにくいという理由で「神(Dominusドミヌス)」を意味する「Do(ド)」に変わり、

さらに「Sancte Iohannes(聖ヨハネ)」の頭文字から「Si(シ)」が付け足されて、今の「ドレミファソラシ」が完成しました。

​「ドレミ」は自然の法則ではなく、

宗教と教育の現場から生まれた語呂合わせだったのです。

共感できるリアルな理由!

面白い〜

【絶対音感】譜読みやハモりが得意に?一生消えない「心のものさし」を育てるコツ

物理的には「無限」にある音から「12音」を選んだ人類の知恵

​ここでひとつの疑問が浮かびます。

「ド」と「レ」の間の音って、本来はどうなっているのでしょうか?

​音の正体は「空気の振動(周波数)」です。

物理的には、スライド笛(トロンボーン)のように、低い音から高い音までグラデーションのように「無限の音」が存在しています。

​では、なぜピアノの鍵盤は滑らかなスライドではなく、1オクターブを12個の半音(白鍵7つ+黒鍵5つ)に切断して並べているのでしょうか?

鍵盤楽器の始まりは、オルガンの原型に付けられた、手で押すタイプの数個の大きなボタン、らしいよ。

徐々に指一本分の幅に狭くなり、数を増やしてったとか。

数学の美しさと「半音」の妥協点

​少し難しい話ですが…、紀元前6世紀、数学者のピタゴラスは

弦の長さを半分(1/2)にすると1オクターブ上の音になり、3分の2(2/3)にすると最高に綺麗にハモる(5度上の音)」

という物理法則を発見しました。​

​「なんでドレミは7つなのか?」バッハの楽譜に隠された、宇宙のズレをハッピーエンドに変える魔法

人類はこの「綺麗にハモる音」を積み重ねていった結果、のちに

1オクターブを12等分(平均律)すると、人間にとって一番扱いやすく、どの調(キー)で演奏してもそこそこ綺麗に聞こえる!

という黄金比にたどり着いたのです。

​デジタル画像で例えるなら、無限の色彩グラデーションを「扱いやすい画素数(量子化)」に丸めたようなもの。

本来グラデで境目のない「色」を、

12色のクレヨンに選抜すること同じ!

音の場合は、12に分けられた音同士の距離(音程)が均等ということ。

鍵盤の上で一番小さな単位である「半音」は、人類が無限の音の波をシステム化するための偉大な発明でした。

人間の聴力と「微細な音のズレ」のリアル

音楽の世界では、この「半音」をさらに100等分した「セント(cent)」という単位を使って音の微細な高低を表します(1半音=100セント)。

​人間の耳はかなり優秀で、「あ、今の音、少し高め(低め)に聞こえるな」という感覚的な違和感には気づくことができます。

​しかし、「この音は規格より12.5セント高いですね!」と正確な数値(小数点の度合い)で聴き分けられる聴力を持つ人間はまずいません。​

もし人類が「半音未満の微細なグラデーション」まで全部音階として扱おうとしていたら、鍵盤の数が何千鍵にも膨れ上がり、音楽という文化自体が破綻していたでしょう。

人間が直感的に識別・演奏できる限界として「半音」という単位に丸めたのは、まさに人間の身体感覚に合わせた最高のデザインだったのです。

「ラ=440Hz」迷走の歴史と、現代の調律

​音階(ドレミ)が整った後も、人類は新たな問題にぶつかりました。

それで、結局『ド』や『ラ』の絶対的な音の高さ(ピッチ)って、どれくらい高ければいいの?

​⬆️実は、時代や地域によって基準となる音の高さはバラバラだった!

​□中世の教会: 聖堂に備え付けられたパイプオルガンの管の長さによって「隣の町の教会に行くと『ラ』の高さが違う」という混沌状態。

これじゃあ、他の国や町で集まって合奏できない!

18世紀(モーツァルトの時代): 「ラ(A)」= 約421.6Hz(現代より半音近く低く、落ち着いた温かい音)

困った人類は歴史の中で何度も会議を開きます。

​例えば、1859年(パリ公認)、

フランスが「A=435Hz」と法律で制定​します。「歌手の喉が壊れる!高いピッチの競争をやめさせろ」とナポレオン3世が規格化。

その後、​放送技術や楽器の輸出入の発達に伴い1939年ロンドン国際会議で議論され、

けっこう最近…!

時報の「ピ、ピ、ピ、ポーン」の「ポーン」の音(440Hz)は、まさにこの会議で決まった世界共通ルールなのです。

でも……現代のピアノ調律は「442Hz」!?

​国際規格で「440Hz」と決まったはずなのに、現代の日本のオーケストラやピアノ調律の現場では、「A=442Hz」や「A=443Hz」と、少し高めに調律されるのが主流になっています。​

なぜでしょうか?理由はシンプル。

ピッチをわずかに高くした方が、音がキラキラして華やかに聴こえるから」です。

​会議で世界統一ルールを決めたのに、「もっと華やかにしたい!」という人間の感覚的な欲望によって、またじわじわと基準が上がっている……

とどまるところを知らない、なんとも人間らしい現象です。

Steinwayコンサートグランドと計算された音響設備による、クリスタルやダイヤモンドのようにキラキラ輝く華やかさ。

知ってしまったらもう元には戻れない感じあり。

おわりに:人工的なルールの中で咲く「音の美しさ」

自然界の無秩序で無限な音の波。

そこから①数学を駆使し、②宗教の語呂合わせ(縦読み)で名前をつけ、③国際会議で基準の周波数を決定した「ドレミファソラシド」!

​私たちが感動して聴いている音楽は、最初から地球にあったものではなく、人類が数千年間かけて作り上げた「人工的な世界規格」の上で奏でられている奇跡なのです。

​今度ピアノの鍵盤を指で叩くとき、あるいは好きな曲を聴くとき。

その一音一音の背景に、古代の数学者や中世の修道士、そして国際会議で議論した人々の「歴史の結晶」が詰まっていることに、少しだけ思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました