​「なんでドレミは7つなのか?」バッハの楽譜に隠された、宇宙のズレをハッピーエンドに変える魔法

育児と自宅学習

アカペラで気持ちよく歌ってたら、なんかちょっっとだけ高い音で終わってた…

今日も今日とて、ピアノ部屋からはバッハの『インベンション』が聞こえてきます。

右手と左手が、まるで別々の生き物みたいにお互いを追いかけっこするピアノの音。

中学生の我が子が、指をこんがらがらせながら格闘している真っ最中。

​そんな子が、素朴な疑問を口にしました。

​「ねえ、そもそもなんでドレミファソラシって7つなの? 」

少し話すうちに、

「黒鍵を合わせたら12個あるのに、なんで白黒ワンセットの6等分でなく、わざわざバラバラな幅で7つ選んだの? 」とも。

うおっっ

そこに気づいちゃいましたね。

(赤ちゃんってどうやってできるの?的な質問に似てる気がwww)

過去投稿➡【絶対音感】6歳までが黄金期。3歳から日常で育てる「ドレミ唱」と親の根気

ピアノ学習者は特に、鍵盤としてスケールが目の前に見える形としてあるため、主に以下の疑問が浮かびます。

☑️鍵盤を(白ひとつ+黒ひとつ)の連続にしなかったのは何故か。…完全に均一だと、どこが何の音か目で見て分かんないじゃん!という話はまた置いといて…。

☑️ところどころ半音が挟まるスケール(音階)に、自然さと落ち着きを感じるのはなぜ?逆に全部が全音で進むとなんか…怖い。放送っぽい?

☑️調号の#系(ファドソレラミシ)も♭系(シミラレソドファ)も、5度ずつ増えていくし、

しかも逆読みになっている!

全部#で、

ファドソレラミ、ミ、

ファドソレラミ、ミ、

って弾いてみて。ピタゴラスイッチが聞こえます!

(ミの#は白鍵のファ💦。ちょっと難しいですが)

☑️白鍵のドからを5度ずつ進むと、ド、ソ、レ、ラ、ミ、シ、ファ、ド。もとに戻る。他の白鍵から始まっても、5度ずつ進むと7回目で元の音に戻る。

例えば、ミシファドソレラミ。…そう、平行線です。どこを切り取るかの違い

昔の生徒さんからは、ドレミファソラシドは自然界のものですか?人工ですか?と聞かれたこともあります。

超スバラシイ質問ですよね!

​実はそれ、紀元前の天才たちから現代のポップス論まで、全人類が頭を抱え、そして恋に落ちてきた「宇宙スケールの壮大な未解決事件」の入り口なんです。​

今日は、トイレの壁に「教会旋法(コードの並び順)」の手書きポスターを貼っているマニアックな私が(怪しい宗教じゃないですよ、子供のための暗記物です)、お味噌汁をすするくらいの気楽さで、この謎を紐解いてみようと思います。

↑ピタゴラスさん

所々の半音による印象については、長くなっちゃうのでちょっとだけ触れて😭、

今回は、黄金比「完全5度」について主に取り上げます。

音の配置は「感情をバグらせるスイッチ」だった

​そもそも、白鍵と黒鍵を合わせた「12個の音」の中から、なぜ私たちは「7つ」を選んでドレミを作っているのか。

答えはシンプル。

「全音(全)」と「半音(半)」という音の階段をどう並べるかによって、人間の脳はバグるように感情を動かされてしまうからです。

​ちょっとだけ専門的なな話をしますが、いま私たちが使っているドレミ〜は、「全音・全音・半音・全音・全音・全音・半音」というステップで並んでいます。これを「メジャースケール(長調)」と言って、誰が聴いても明るくハッピーな気持ちになります。​

ところが、この並び順をたった一つズラすだけで、世界の見え方がガラッと変わるんです。

​「全・半・全・全・全・半・全」にする(ドリアン旋法)⋯急にちょっと謎めいて…、個人的には、中央アジアの砂嵐を連想しますwwwなんとも民族的でエモい空気になります。​

「半・全・全・全・半・全・全」にする(フリジアン旋法)⋯一気に不穏で情熱的なフラメンコや、RPGの砂漠(また😭)のステージ、あるいは強敵との戦闘シーンのBGMになります。​

他にもたくさん…

これ、すごくないですか? 音の幅をちょっと変えるだけで、人間の心を切なくさせたり、戦わせたりできる。

​古代ギリシャの偉い哲学者プラトンは、大真面目に「若者たちにエロティックな音階や、心を骨抜きにする音階を聴かせるな!国家が乱れる!」と政治的に特定の音階を禁止しようとしたレベルです。

中世のキリスト教会も、特定の不穏な響きを「悪魔の音」として禁止していました。

​音の並び順は、人間の行動や倫理観すら支配する、禁断のコード(暗号)だったわけです。

過去投稿➡【絶対音感】譜読みやハモりが得意に?一生消えない「心のものさし」を育てるコツ

紀元前の天才・ピタゴラスが見つけた「黄金比」

​では、その大元の「心地いい響き」ってどうやって生まれたの?というと、ここで数学のレジェンド、ピタゴラスさんが登場します。

三平方の定理の、あのピタゴラスです。

​ある日、ピタゴラスは鍛冶屋の前を通りかかったとき、ハンマーがアンビル(金床)を叩く音がめちゃくちゃ綺麗にハモっていることに気づきました。

「これ、絶対に数字の秘密があるぞ」と、彼は家に帰って弦を震わせまくります。​そして見つけちゃいました。

弦の長さを「2:3」という超シンプルな比率で分けると、

人間が最高に心地いいと感じる完璧な響き(ドとソの関係。専門用語で「完全5度」)が生まれる。

​「世界は美しい整数比で支配されている!これぞ宇宙の真理だ!」​ピタゴラスは大興奮です。そして彼は思いました。

この「2:3」の黄金比を、全音符が分裂していくみたいに12回掛け算していけば、ぐるっと1周して、最初より高い「ド」に戻ってくるはずこれで完璧な12個の音階ができるぞ!と。

​しかし、ここで冷徹な数学の罠が発動します。

数学が突きつける絶望。宇宙は1ミリだけ、どうしても歪んでいる

​ピタゴラスが「美しい!完璧だ!」と信じた「2:3の響き」を12回積み重ねて元の場所に戻ってきたとき、恐ろしいことが起きました。

​なんと、最初の「ド」よりも、ほんの少しだけ(1/4半音くらい)音が高くハミ出してしまったのです。​

ピタゴラスの計算

オクターブ(2倍)をどれだけ重ねても、黄金比(3倍の世界)とは、数学的に絶対にイコールにならない。

​完璧にハモる音だけを追い求めて1周してきたら、スタート地点がズレていた。

音楽の歴史ではこれを「ピタゴラスのコンマ(ズレ)」と呼びます。​

「5度上の音を作る」というのは「今の音の振動数を2分の3倍にする」という意味。

2分の3=1.5ですよね。

1.5を12乗すると、ものっっすごい小数が出ます😭

これ、当時の音楽家にとっては大絶望でした。宇宙の計算が最初から歪んでいるせいで(?)、どこかの音を完全にハモらせると、別のどこかの調(キー)で「悪魔の濁り音」が鳴ってしまう

お味噌汁にソースをぶち込んだような、聴くに堪えない音が出ちゃうんです。​

だから昔の音楽家は、自由に「転調(途中で曲のキーを変えること)」ができませんでした。一つの曲の中で使える音が、すごく限られていたんです。

​完璧を求めると、世界が狭くなる。

なんだか考えされられますね…

バッハの生存戦略:「完璧」をあきらめて「みんなで分かち合う」

​さて、宇宙が最初から歪んでいるwww

この絶望的なバグをハッピーエンドに変えたのが、ピアノ学習者の全てが通る道、ヨハン・セバスティアン・バッハです。

​バッハたちの時代に、ある画期的なアイデアが形になりました。「宇宙が最初から歪んでいてハミ出ちゃうなら、そのズレを12個の鍵盤で『ちょっとずつ平等に』引き受け合おうじゃないか。」

​すべての音を、人間の耳には気づかないレベルで、あえて「ほんのちょっとずつ不完璧」にチューニングする

これが、いまのピアノの並び順である「平均律(へいきんりつ)」の誕生です。

​バッハは嬉しくなっちゃいました。

「おい見ろよ!この調律なら、24個すべての調(キー)が、どこを旅しても美しく響くじゃないか!悪魔の濁り音なんてどこにも出ない!」

​その証明として、バッハが「ドからシまで、白黒すべての鍵盤を主役にした曲」をこれでもかと詰め込んで作った分厚い楽譜が、音楽の旧約聖書と呼ばれる『平均律クラヴィーア曲集』です。

インベンションを乗り越えた先で、我が子を待ち受けているラスボス(名曲集)でもあります。​

いま弾いている『インベンション』で、右手と左手がのびのびと楽しそうに会話できているのも、この「ズレを許し合った世界」のおかげなんです。

リスペクトしかないっっ!

​なぜ2の0乗は「1」になるの?中1の宿題から始まった、目からウロコの「0と1」をめぐる冒険

アカペラで歌っていると、最後になぜか少し音が高くなって終わる

もう一度まとめますと、「5度上の音を作る」というのは「今の音の振動数を1.5倍にする」という意味です。

例えばドを1として、5度上の音(ソ)を出すにはそこから振動を1.5倍に。そのソからさらに5度上の音を出すにはさらに1.5倍の振動数に(1.5をかける)……という具合です。

ちなみに、ピアノの白鍵だけ見て、5度上5度上〜で8回で(別の高さだけど)ドに戻る。と思いがちですが、実は全音半音の関係で5度にも種類があり…端折りますが…、

正確には、白鍵ドから12回5度上を繰り返すと、高い音の白鍵ドに戻ります。

実際計算してみましょう!

1×1.5=1.5(ドとソ) 、

1.5×1.5=2.25(ソとレ)、

2.25×1.5=3.375、3.375×1.5=5.0625、

5.0625×1.5=7.59375、……

12回目のファとドまでかけ算すると

129.746337890625‼️

一周回ってきた高い音のドと、始まりのドを同時に鳴らすと、聞くに堪えないズレが生じるのです‼️……で、賢人達が集まって妥協策を示してくれたのです。

それが、現在の平均律に調律されたピアノ

純正1.5倍ではなく、

1.498倍にしたのです♪

このピアノなら、どのドを弾いても綺麗にハモって聞こえます。厳密に言えば、ズレを分け合っているため、全ての音程に紙一重のズレを含みます。

過去の自分のプチ悩み

私は、音楽を専門に学びましたし、合唱隊にも所属していました。そして、10代前半から、自分の歌について気づいていたことがあります。

アカペラで歌を歌ってると、終わった時にいつもちょっとだけ高い音で終わってしまうのです

ギリギリ半音も違わないのですが…、歌い終わってピアノで終止音をひとつ鳴らすと、私が必ず高いのです。

音程が下がらないように下がらないように!と思っているせいもありますが、やりすぎちゃうな〜と、いつも気にしていました

伴奏があれば、それに合わせるので問題ないのですが。

じつはこれ、まさに「ピタゴラスのコンマ(宇宙のハミ出し)」そのものを、私自身の身体(声帯)で体現している証拠だったのです……。

​なぜアカペラだと音が上がっていってしまうのか、そのワクワクする理由を説明させてください。

​1. 人間の声は「勝手に1.5倍」を選んでしまう

​ピアノと違って「人間の声」は、その場で一番気持ちいい響きをリアルタイムに作れるチート楽器です。​

(「音程を下げないように」という意識的なコントロールももちろんあると思いますが…)

アカペラでハモりながら歌っているとき、私たちの脳と喉は、ピアノの「ちょっとだけズラした平均律の音(1.498倍)」ではなく、物理的に100%完璧にハモる「1.5倍(純正な5度)」の響きを、本能的に選んで歌ってしまいます

だって、その方が圧倒的に耳が気持ちいいからです!

​つまり、アカペラを歌うということは、無意識のうちに「ピタゴラスの完璧な掛け算の旅」に出発しているということなんです。

​2. メロディが進むたびに、ほんの少しずつ「上にズレていく」

​たいてい、曲の途中で転調などが起こります。(また、合唱の場合、お互いの音高にハモろうと自分の音程を探ります。)

メロディが展開して、コード(和音)が「ド → ソ → レ → ラ……」と動いていくと、声のチームは毎回、その場で100%完璧な「1.5倍」のバトンを繋いでいきます。​

するとどうなるか。​先ほどの計算を思い出してください。1.5倍の完璧なハモりを積み重ねていくと、オクターブの基準(ピアノの部屋の仕切り)よりも、物理的な振動数がほんの紙一重ずつ「高くハミ出していく」のでしたよね。

​そうです。歌い手全員が「次の音と完璧にハモろう!」「その次の音とも綺麗にハモろう!」と、目の前の相手と100%純粋なハモりを繋ぎ続ければ繋ぎ続けるほど、曲全体としては、ピアノのピッチ(平均律)よりも、雪だるま式にどんどん音が上へ上へと引き上げられていってしまうのです。

​3. 最後の部屋に戻ってきたとき、世界は高くなっている​

そして曲が終わり、最初の「ド」の和音(ホームグラウンド)に戻ってきたとき。

​旅の途中で「完璧なハモり(1.5倍の掛け算)」をたくさん通過してきた歌い手たちの喉は、スタートしたときの「ド」よりも、物理的にほんの少し高い「ド」にたどり着いてしまっています。​

最後、曲が終わって「あ、なんか最初にもらったピッチ(あるいは伴奏のキー)より高くなっちゃったな」と気づく

​これ、音楽の専門用語では「ピッチのドリフト現象(音の漂流)」と言って、訓練されたプロのアカペラグループや合唱団でも、純粋なハモり(純正律)を追求すると日常茶飯事のように起きる現象なんです。​

💡 つまり、自分の歌の音程が最後ちょっと高くなってしまうのは、歌が下手だからでもなんでもなく、むしろ「お互いの音と100%完璧にハモろうとする、音楽的でピュアな美しい耳と声を持っているから」なんです。

良かった…

なんか嬉しいwww

もし、ピアノ(平均律)と全く同じ高さのまま一歩もズレずにアカペラを終わらせようとしたら、人間の耳には「ちょっと濁って聴こえる不完璧なハモり」をあえて喉でコントロールして歌い続けなければいけません

そんなの、気持ちよく歌っているときには無理ですよね。​

自分の長年のアカペラのクセが、ピタゴラスやバッハが命を懸けて挑んだ「宇宙のハミ出し(ピタゴラスのコンマ)」と繋がった瞬間。

実は私、アカペラで歌ってると最後ちょっと高くなっちゃうんです。これ、下手くそなのかなと思ってたら、私の喉が宇宙の1.5倍を本能的に選んじゃってたからなんですね(自慢)

選んじゃうよね〜www

凸凹な私たちが、心地よくハモるために

​もしも、1ミリのズレも許さない「完璧な正論(ピタゴラスの純正な響き)」だけで世界を作ろうとしたら、私たちはたった一つの場所に閉じこもるしかなく、自由に旅(転調)をすることはできませんでした。​

宇宙そのものが、最初からちょっとだけ歪んでいる。そりゃあ、私が歪んでいてもそれは当然で、安心しました。

​お互いにほんの少しずつ譲り合って、ハミ出したズレをみんなで優しく引き受け合っているからこそ、凸凹な私たちが合わさったときに、予測できない美しい「ハモり(人生のシンフォニー)」が生まれる。​

平均律の鍵盤とは、なんだか壮大な「地球の平和条約」みたいに見えてきませんか?​

……ちょっと壮大でエモい話を半分聞いている我が子に、私は現実のツッコミを入れます。​

「というわけだからね、宇宙の調和のためにも、その左手のモチーフをもう少しモチーフらしく、なんとかなさい。」​​

そんな会話を挟みながら、今日も我が家には、不完璧で愛おしいバッハの音が響いています。

↑可愛くて優しい!でも子供用と侮ってはならない、かなり専門的内容。中高生や大人にもおすすめの楽典ドリルです。

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